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松江地方裁判所 昭和36年(ワ)14号 判決 1961年10月30日

主文

一、被告は、原告小豆沢利平に対し、別紙株券等目録中、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13(以上日通)を引渡せ。

一、被告は、原告福田馨に対し、別紙株券等目録中、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23(以上西島)を引渡せ。

一、被告は、原告田中長久に対し、別紙株券等目録中、24(日本化成)、25、26、27、28(以上三菱化成)を引渡せ。

一、被告は、原告陶山馨に対し、別紙株券等目録中、29(野村信託)を引渡せ。

一、原告景山禎久の請求を棄却する。

一、訴訟費用中、原告景山禎久と被告との間に生じた部分は原告景山禎久の負担とし、その余は被告の負担とする。

一、この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告小豆沢利平において金四五、〇〇〇円、原告福田馨において金二〇〇、〇〇〇円、原告田中長久において金二〇、〇〇〇円、原告陶山馨において金一五、〇〇〇円の担保を供するときは、それぞれ仮りに執行することができる。

事実

原告等五名訴訟代理人は、主文第一項ないし第四項同旨の判決及び「被告は原告景山禎久に対し別紙株券等目録中1、2、3(以上電気化学)を引渡せ」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、別紙株券等目録中1ないし3の株券は原告景山禎久の、4ないし13の株券は原告小豆沢利平の、14ないし23の株券は原告福田馨の、24ないし28の株券は原告田中長久の、29の投資信託受益証券は原告陶山馨の各所有に属するが、原告等はいずれも売付のため、又は買付の後本件株券類を証券業を営んでいた訴外島根証券株式会社に寄託していたところ、右訴外会社は昭和三六年二月一七日破産宣告を受け、被告が破産管財人として本件株券類を占有するに至つた。しかし本件株券類はいずれも原告等の所有に属し破産財団に属しないから、被告はこれが占有を継続すべき権限はない。よつて原告等は所有権に基き本件株券類の引渡しを求める。」と述べ、被告の主張に対し、

「一、本件株券類は原告等に名義書替未了のものであるが、いずれもその時の便宜のためであつて、名義書換の有無にかかわらず右株券類は原告等の所有に属する。別紙株券等目録中、29は無記名証券で裏書を要せず、4ないし28の株券には前所有者の裏書のための押印のみが存する。

二、原告等の、本件株式類の所有権取得原因は、左のとおりである。

(一)  電気化学六株(別紙目録中、1ないし3)……原告景山禎久は、従前より、佐藤一郎なる仮名を用いて、島根証券に対し、株券類の買付又は売付等を委託していたが、本株式は昭和三三年頃、配当株式として原告に配当があつたので、そのまま島根証券に寄託していたもの。

(二)  日本通運一〇〇〇株(別紙目録中、4ないし13)……原告小豆沢利平が、昭和三四年末頃島根証券を通じて買付け、名義書替手続未了のまま、島根証券に寄託していたもの。

(三)  西島製作所一〇〇〇株(別紙目録中、14ないし23)……原告福田馨が昭和三四年八月頃島根証券を通じ買付け、名義書替手続未了のまま、島根証券に寄託していたもの。

(四)  日本化成一〇〇株、三菱化成四〇〇株……原告田中長久が、昭和三三年頃、信用取引の代用証券として、島根証券を通じ、伊藤銀証券に提供していた三菱化成一〇〇〇株が、計算済となつて島根証券に返つて来たうち、五〇〇株は、他人名義のものが交換されて返つて来た。銘柄さえ同じければ名義は何人となつていても、価値は等しいので、その五〇〇株を返還されたものとして、そのまゝ島根証券に寄託していたもの。

(五)  野村信託受益証券一〇口……原告陶山馨が、昭和三四年八月頃、島根証券を通じ買付け、そのまま島根証券に寄託していたもの。

三、本件株券類は、原告等が島根証券に寄託したものであり、島根証券は原告等の代理占有者である。被告が現に株券類を占有するのは、島根証券の占有(代理占有)を承継したものに過ぎない。

即ち被告は、原告等の株券類の代理占有者の地位にあるものであつて、かかる地位にある者が、株券類の所有者である原告等に対し、対抗要件の欠如を主張することはできない。

四、株式の所有者が自己が株主であることを主張しうる要件(対抗要件)は会社に対する場合とその他の第三者に対する場合とではその態様を異にし、株主名簿の記載は会社に対する対抗要件たるに止まる(商法第二〇六条第一項)。

裏書印のみを押捺した記名式株券は従前の白紙委任状を附与した記名株券と同じく、無記名債権に準じ、動産とみるべく、占有の取得をもつて会社以外の第三者に対する対抗要件とみるべきである。

五、裏書印のみを押捺し譲受人の記名未記入の株券は、譲渡人が氏名記入権を譲受人に譲渡したにすぎないものであつて、記名が存すると否とにより、譲渡の効力に差異を認めることは、商取引の実情を無視したものである。譲渡証書による場合は商法もこのことを明らかに認めているが(商法第二〇五条第三項)、裏書による場合も、解釈を異にすべき理由はない。

六、仮りに右主張が認められないとするも、捺印のみによる株券裏書は商慣習により有効に認められている」と述べた。

被告は、「原告等の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として

「一、原告等主張事実中、訴外島根証券株式会社が証券業を営んでいたこと、同訴外会社が破産宣告をうけたこと、被告が本件証券を占有していること及び別紙株券等目録中、4ないし28の株券には前所有者の裏書のための押印のみが存すること、29の証券が無記名であることはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

二、本件各記名株券の名義が譲渡裏書により、又は株券及びこれに株主として表示せられた者の署名ある譲渡を証する書面の交付により、夫々の各原告に名義書替になつていないから、各原告がその記名株券の所有者であるとの主張を被告に対抗できない。又野村投資信託受益証券は無記名で民法第八六条の規定により動産とみなされるから、第三者である被告に対しては民法第一七八条の適用を受けねばならない、蓋し被告破産管財人は破産者の法定代理人ではなく、公の機関としてその名及びその責任において破産事務を処理せんとするものであつて、原告並びに破産者に対し第三者たる地位にあるものである。

三、記名株式の譲渡方法は、株券の裏書(署名又は記名捺印)とその株券の交付とを要するものであつて、それは当事者及び当事者以外の会社、その他の第三者に対する関係において譲渡を主張するに要すべき有効要件であるとともに対抗要件でもある。法は厳格な方式を要求し、もつて取引の安全確実を期しているのである。しかるに原告等主張の本件株式の譲渡には株券の交付がないのみならず、本件裏書には署名がないし、署名に代る記名捺印もない。捺印のみをもつて裏面をなす商慣習は不適法であるから、原告主張の本件譲渡裏書はいずれも株式譲渡の効力がなく無効であるといわねばならない。仮りに株式譲渡の効力が当事者間に認められるとしても、記名を補充しなければ所有権者として第三者である被告に対抗できない。」と述べた。

立証(省略)

株券等目録

<省略>

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